量子世界の入り口 - 波動と粒子

光電効果は粒子性、干渉は波動性を示す:光の二重性を実験から理解する

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光は「波」か、それとも「粒」か

私たちの身の回りにある光は、古くからその正体について様々な議論がされてきました。ある物理現象を見ると光は波のように振る舞い、また別の現象を見ると粒のように振る舞うように見えるのです。この、一つのものが状況によって「波」と「粒」という全く異なる二つの性質を示す現象を、「波動と粒子の二重性」と呼びます。特に光において、この二重性は顕著に現れます。

学校の授業で、光が波であるという性質と、光が粒であるという性質の両方を習い、混乱してしまう方もいらっしゃるかもしれません。教科書では二つの性質が別々に説明されているため、どのように結びつけて理解すれば良いのか分かりにくい場合があります。

ここでは、光の波動性を示す代表的な現象である「光の干渉」と、光の粒子性を示す代表的な現象である「光電効果」という二つの実験を通して、光の二重性が具体的にどのような形で現れるのかを見ていきます。

光の干渉に見る「波」としての光

まず、「光の干渉」について考えてみましょう。これは、光が波として振る舞っていると非常にきれいに説明できる現象です。

水面に二つの石を投げ入れると、それぞれの石から同心円状に波紋が広がります。これらの波紋がぶつかり合う場所では、波が高いところと高いところが重なればさらに高くなり、高いところと低いところが重なれば打ち消し合って平らになります。これが波の「重ね合わせ」や「干渉」と呼ばれる現象です。波の特徴は、このように二つ以上の波が出会ったときに、互いに影響し合って強め合ったり弱め合ったりすることにあります。

光でも同じような現象が観察されます。最も有名なのが「二重スリット実験」です。これは、非常に細い二つの隙間(スリット)に光を当て、その向こうにあるスクリーンに映る模様を観察する実験です。もし光が単なる粒であれば、スリットを通った光は二本の筋となってスクリーンに映るはずです。しかし、実際に実験してみると、スクリーンには明るい部分と暗い部分が縞模様となって現れます。

この縞模様は、水面の波紋と同じように、二つのスリットから広がった光の波が干渉し合うことで生まれます。光の波が強め合った場所は明るく、弱め合った場所は暗くなるのです。この実験結果は、光が波としての性質を持っていることの強力な証拠となります。波長という概念も、この干渉現象を説明する上で非常に重要になります。

光電効果に見る「粒」としての光

次に、「光電効果」という現象を見てみましょう。これは、金属に光を当てると、金属の表面から電子が飛び出してくる現象です。光電効果は、光が波としてだけではうまく説明できない側面を持っています。

例えば、特定の種類の金属板に光を当てたとき、いくら強い光を当てても、ある「最低限の振動数」よりも低い振動数の光では電子が全く飛び出してこないという性質があります。そして、その最低限の振動数よりも高い振動数の光であれば、光が弱くてもすぐに電子が飛び出してくるのです。さらに、飛び出してくる電子のエネルギーは、光の強さではなく、光の振動数によって決まります。光を強くすると、飛び出してくる電子の数が増えるだけです。

もし光がエネルギーを連続的に運ぶ波であるとすれば、強い光を当てれば波のエネルギーが大きくなり、やがては電子が飛び出してくるはずです。また、電子が飛び出すまでには、波からエネルギーを受け取るための時間が必要になるように思われます。しかし、実際にはそうなりません。

この光電効果の性質は、光がエネルギーのかたまりである「粒」として振る舞っていると考えると非常にすっきりと説明できます。この光の粒を「光子(こうし)」と呼びます。光子は、その振動数に対応した一定のエネルギーを持っています。金属から電子を飛び出させるには、その電子を金属内に束縛しているエネルギーよりも大きなエネルギーを与える必要があります。光子が持つエネルギーがその閾値を超えている場合にのみ、光子を一つ受け取った電子がすぐに飛び出すことができるのです。光の強さは、光子の数に対応します。強い光は光子の数が多いため、より多くの電子を飛び出させることができます。

光電効果は、光がエネルギーを運ぶ「粒」、すなわち光子であるという側面を示しています。

同じ光がなぜ異なる性質を見せるのか

このように、光は干渉実験では波として振る舞う証拠を見せ、光電効果の実験では粒として振る舞う証拠を見せます。同じ光であるにも関わらず、観測する現象によって「波」の性質が前面に出たり、「粒」の性質が前面に出たりするのです。これが、光の波動と粒子の二重性です。

重要なのは、光が「波である」と同時に「粒でもある」というよりも、「波としての性質も、粒としての性質もどちらも持っている」と理解することです。私たちの日常的な感覚では、波は広がりを持ち、粒子は位置が定まった点のような存在ですから、この二つの性質を同時に持つというのは理解しがたいかもしれません。しかし、量子力学の世界では、ミクロな粒子はこの二重性を持つことが基本的な性質として受け入れられています。

光だけでなく、電子のような他のミクロな粒子も波動性と粒子性の両方を持つことが知られています。なぜこのような二重性が存在するのか、そしてそれがどのような物理的な意味を持つのかは、量子力学の非常に深いテーマです。しかし、まずは光の干渉や光電効果のような具体的な現象を通して、光が波と粒の性質をどのように使い分けているのかをイメージすることが、量子世界への第一歩となります。

この二重性は、私たちの直感とは異なりますが、様々な実験によって確認されている物理現象の真実です。この不思議な性質を理解しようとすることが、量子力学の面白さでもあります。