量子世界の入り口 - 波動と粒子

量子化とは何か? エネルギーが連続ではない世界

Tags: 量子化, エネルギー, 波動性, 粒子性, 量子力学

日常の感覚と異なる量子の世界のルール

私たちの身の回りでは、物の位置や速度、あるいはエネルギーといった物理的な量は、どんな値でも取れるように感じられます。例えば、坂道を転がるボールは、坂道のどこにでも存在できますし、その高さに対応するエネルギーも、なめらかに変化していくように思えます。

しかし、とても小さなミクロの世界、つまり量子の世界では、この当たり前の感覚が通用しないことがあります。そこでは、エネルギーのような量が、まるで階段のように、ある決まった「段」の値しか取れない、という不思議な現象が見られます。この現象を「量子化」と呼びます。

エネルギーが「連続」であることのイメージ

エネルギーが連続的であるというのは、先ほどの坂道の例えで考えると分かりやすいかもしれません。ボールが坂道の頂上から転がり落ちるとき、その位置エネルギーは頂上の値から地面のゼロまで、途中にあるありとあらゆる値を順にとって変化していきます。どこか特定の値しか取れないということはなく、滑らかに変化します。

また、私たちが車を運転する際に、速度を10km/hから20km/hに上げるとします。このとき、速度は10.1km/h、10.2km/h、...、15km/h、...といったように、間のどんな値も通過することができます。これも量が連続的に変化する例です。

このように、日常の世界で私たちが扱う多くの量は、連続的に変化すると考えるのが自然です。

量子化:エネルギーが「飛び飛び」になるイメージ

一方、量子化された世界でのエネルギーは、階段を上り下りするボールに例えることができます。ボールは、1段目、2段目、3段目といったように、決まった段の上にしか静止できません。1段目と2段目の間に中途半端に浮いている、ということはできません。

このとき、ボールの持つ位置エネルギーは、それぞれの段の高さに応じて決まる特定の値(例えば1段目のエネルギー、2段目のエネルギーなど)しか取ることができません。これらのエネルギーの値は、連続しておらず、飛び飛びの値になります。これが、エネルギーの「量子化」が起きている状態のイメージです。

量子の世界では、例えば原子の中を運動する電子のエネルギーや、光のエネルギーなどが、このような飛び飛びの値しか取らないことが知られています。

なぜ量子化が起きるのか?

では、なぜエネルギーのような量が、連続的ではなく飛び飛びの値しか取れなくなるのでしょうか。その背景には、量子の持つ「波」としての性質が深く関わっています。

以前の記事で、電子のような粒子も波としての性質を持つことをご紹介しました(物質波)。この波の性質を持つ粒子が、限られた空間、例えば箱の中や原子核の周りといった狭い領域に閉じ込められる状況を考えてみましょう。

ちょうど、ギターやバイオリンの弦を弾いたときに、特定の高さの音(特定の周波数の波)しか安定して出せないのと似ています。弦の両端が固定されているため、波は弦の上で特定のパターン(定常波)しか安定して存在できないのです。例えば、弦の長さの波、その半分の波、そのさらに半分の波といったように、長さ全体できれいに収まる波しか許されません。

量子の世界で、粒子が波として振る舞い、狭い空間に閉じ込められると、この弦の定常波のように、存在する波のパターンが限られてしまいます。そして、量子の波が持つエネルギーは、その波のパターン(波長や周波数)と関係しています。結果として、安定して存在できる波のパターンに対応するエネルギーだけが許される値となり、エネルギーが飛び飛びになるのです。

量子化が説明する不思議な現象

このエネルギーの量子化という考え方は、量子の世界で観測される様々な現象を説明する鍵となります。

例えば、原子が光を出すとき、特定の色の光(特定のエネルギーを持つ光)しか出さないことが分かっています。これは、原子の中の電子が、エネルギーの飛び飛びの「段」を移動するときに、その段差に対応するエネルギーを持つ光を放出するためです。放出される光のエネルギーが決まっているからこそ、色は特定の色に限られるのです。これを原子スペクトルと呼びます。

また、光そのものも、エネルギーの「塊」としてやってくる性質があります。このエネルギーの塊一つ一つを光子と呼びますが、光子の持つエネルギーも特定の量に量子化されています。

まとめ

エネルギーなどの物理量が連続的な値ではなく、飛び飛びの値しか取らない現象を「量子化」と呼びます。これは量子の世界特有の基本的なルールの一つであり、粒子が波としての性質を持ち、限られた空間に閉じ込められる状況で現れます。

量子化の概念は、原子が特定の色の光を放出・吸収することや、光そのものがエネルギーの粒として振る舞うことなど、様々な量子現象を理解する上で非常に重要です。波動と粒子の二重性とともに、量子化はミクロの世界の不思議を解き明かすための基礎となる考え方です。