量子の二重スリット実験が示す波と粒の不思議
量子の二重スリット実験が示す波と粒の不思議
私たちは日常で「波」と「粒」という言葉を使い分けています。水面の波紋や音は波として、ピンポン玉や砂粒は粒としてイメージできます。物理の世界でも、光は波として、電子は粒として扱われることが多々あります。しかし、とても小さな、量子の世界では、この区別が曖昧になり、一つのものが波としての性質と粒子としての性質の両方を示すことが知られています。これが「波動と粒子の二重性」と呼ばれる現象です。
この不思議な二重性を最も象徴的に示しているのが、「二重スリット実験」です。この実験は、光や電子のような量子の振る舞いを理解する上で非常に重要です。
光の二重スリット実験(古典的な場合)
まず、波が二重スリットを通過するときにどうなるかを見てみましょう。水面に広がる波を考えてみてください。二つの細い隙間(スリット)がある板を波が通り抜けると、それぞれのスリットから新しい波が発生します。これらの波が重なり合うことで、強め合ったり弱め合ったりする場所が生まれます。これを「干渉」と呼びます。
光も波として振る舞う場合、同じように干渉が起こります。二重スリットを通った光をスクリーンに当てると、光が強いところと弱いところが交互に並んだ縞模様が現れます。これが「干渉縞」です。波が干渉によって特定のパターンを作るというのは、古典的な物理学でよく知られている現象です。
一方で、もし光がピンポン玉のような粒だとすると、二重スリットを通ったとき、粒はどちらか一方のスリットを通って直進し、スクリーンのスリットの真後ろあたりに二本の筋ができるだけだと予想されます。
量子の二重スリット実験:電子を一つずつ飛ばすと?
さて、ここで不思議な量子の世界に入ってみましょう。光や電子といった「量子」を、非常に弱く、一つずつ二重スリットに向けて飛ばす実験を考えます。検出器を使って、スクリーンに電子(や光子)が一つずつ到達した点を記録していくのです。
もし電子が完全に粒であれば、先ほどの予想通り、スクリーンには二つのスリットの真後ろあたりに電子が到達した点が集まり、最終的には二本の筋ができるはずです。まるで小さなピンポン玉を一つずつ投げているようなものです。
ところが、実験を続けると、信じられないことが起こります。スクリーンに電子が到達した点は、最初はばらばらに見えますが、数を増やしていくと、なんと波の干渉縞と同じようなパターン、つまり縞模様が現れるのです。
電子を「一つずつ」飛ばしているにもかかわらず、全体の到達パターンは波の干渉を示しています。これは、一つ一つの電子が、まるで波のように振る舞い、二つのスリットを同時に通り抜けて干渉したかのような結果を示していることを意味します。これが、量子の「波動性」が表れている例です。
不思議さの核心:観測するとどうなるか?
この実験でさらに不思議なのは、電子がどちらのスリットを通ったかを見ようとすると、結果が変わってしまうことです。例えば、それぞれのスリットのすぐ後ろに検出器を置いて、電子がどちらを通過したかを観測したとします。
この「どちらのスリットを通ったか」という情報を得ようとすると、驚くべきことに、スクリーンに現れるパターンは干渉縞ではなくなり、まるで粒が二つのスリットを通って進んだときのような、二本の筋になってしまうのです。
つまり、量子は「観測されているかどうか」によって振る舞いを変えるように見えるのです。誰も見ていないときは波のように振る舞い、どちらを通ったかを見ようとすると粒のように振る舞う。これは、私たちが日常で経験する物体の振る舞いとは大きく異なります。
まとめ:波と粒の二重性と相補性
量子の二重スリット実験は、光や電子といった量子が、波としての性質と粒子としての性質の両方を持ち合わせていること、そして、どちらの性質が現れるかは「どのように観測されるか」に依存することを示しています。
重要な点は、波動性と粒子性は同時に観測できない、ということです。波としての干渉縞が見えるときは、どちらのスリットを通ったかという粒子の経路情報は分かりません。逆に、どちらのスリットを通ったかを知ると、干渉縞は消えてしまいます。この関係は「相補性」と呼ばれ、量子の世界の基本的な法則の一つと考えられています。
量子の世界は、私たちの日常感覚からは想像もつかないような不思議に満ちています。二重スリット実験は、その不思議さ、特に波動と粒子の二重性を理解するための入り口として、非常に示唆に富む実験と言えるでしょう。